NEMによるTip型の販売方式という不思議な商売

 最終更新日2019/04/07 公開日2019/04/07    この記事は 約10分 で読めます。

人の思いが募って巡って小さな経済圏を成すことなんてできるのでしょうか?

NEM界隈で宴会隊長("熊呑み"というNEMberの集まりを東京にて毎月開催)としても名の知れるねむぐま氏が展開する"harvestale"というアパレルブランドから、Tip式による販売という変わった提案がされました。

はじめは「商売」という視点からだと「え?」という疑問符だらけになりましたが、紐解いていくと、このスタイルに賛同する人々が輪になって所謂「小さな経済圏」を成すことがあったならば、新しい何かが生まれるかもしれないと思わされることに…。

着物素材に「NEM(ロゴ)の紋」をシルクスクリーンで手刷りし、切り取ったものを加工してハンドメイドされた、2つとして同じ柄の存在しないキーホルダーがnem sotreにて先日販売されました。通常の販売方式に加え、Tip方式で5つの作品(既に完売)がTip方式で実験的に販売されたのです。

Tip方式とは

それがどういうことかと言うと、こうなっています。Tip方式で購入する場合、

1:商品を無料で購入する(※)
2:商品が届く
3:商品を手に取り、気持ちが揺れる瞬間にNEM(XEM)にてTipをする
4:Tipする気持ちがなくなった時、着払いで販売者に送り返す
5:戻った商品は次の希望者に送られ、また1から繰り返される
※…nem storeシステムの都合上、1XEM程度支払う必要があった。

という斬新なスタイルになっていました。商品には1つ1つTip専用のアドレスが割り当てられています。

ちなみに、今回はnemlog内での活動の活発さを指す指標であるnemlogスコアが250以上ある人のみ対象となっており、nem storeとnemlogが連動していることからそれが信頼スコアのように使われました。

Tip方式の狙いは、公式記事によると、

作品の所有権をみんなが放棄してTip方式に変えることで、アーティストとユーザのつながりがよりダイレクトになり、アート作品の価値は固定されることなく愛される限り、より大きくなりNEMのTxが潤い、ハーベストの種となる

ということです。

要するに、単発買取り形式よりも、Tip形式がうまく巡ることで、1作品に対するアーティストの利益が半永続的に期待できる可能性が生まれ、NEMのネットワークを潤す一因にもなるということになるということですね。

あくまでもこれは善意の寄付を募っているのではなく、"気持ちが動いた時に任意の額の料金を支払ってくださいね"、ということであり、マイクロペイメント…数円や数十円単位の市場価値を一瞬で地球の裏側にでも送金できるブロックチェーンならではの「支払い方法」が活かされた試みでもあります。

また、作品が1オーナーの元で不用品となって幽閉されたり抹殺されることからの救済策にもなっている点にも注目です。レンタルのようでレンタルではないこの不思議な販売方法について良し悪し両側面から考えてみました。

ネガティブ目線からの課題

まずネガティブな方から。この時点で筆者は商売目線になるといくつか疑問に思うことがありました。

・販売者やアーティストはTipが少しも得られないことを許容する必要が…?
・Tipが得られないだけではなく返品されないことも許容する必要が…?
・返品されたものがキズものになってた場合、それも「価値」として継承される…?

Tip式にすることで、最初の販売者(アーティスト)が長く利益を得られる期待ができたり、(最初が無料なので)商品を手にしてもらえる可能性が高まるメリットがある反面、上記のような点で原資回収さえもできないリスクを伴うデメリットもあるのですね。

このスタイルがうまく回るためには、まず第一歩としてこのシステムに強く共感できるアーティスト(販売者)とユーザーが集まる必要が大前提です。

Tipというのが"任意の気持ち"である以上は、商品を手にしてから毎日1円1年間だけtipして返却する人も、5年後に1万円tipして永遠に返却しない人も、はたまた5年経ってもtipも返却もしない人も、アーティストは許容して商品を陳列する必要があります。

悪い表現になりますが、商品が売れないよりも持ち逃げされた方がダメージは大きいのですね…。そういう人がいないことを願うのは簡単ですが、tipが"いつ発動するかわからない任意の気持ち"である以上、持ち逃げを罪にすることもできないという…。

是正案

この辺りなどを揃えることで多少のリスク軽減になるかもしれません。

・作品や商品ケースなどそのものにTipするためのQRを仕込む
・専用アプリを開発し、定期/不定期的にイヤらしくない程度に、何かしら演出を伴った仕掛けでユーザーに向けてTipリマインドさせる
・コミュニティサイトのようなものを設け、アーティストとユーザーが交流できる場を設ける
・その中でのスコアリングに応じ、購入可能な作品の幅(原価レベル等)が上がる

とか。

コンセプトに「アーティストとユーザーのつながりがよりダイレクトになり」とあるように、購入者であるユーザーのアクションを待つのではなく、買取形式よりもアーティストからユーザーに向けたコミュニケーション(言えば営業)を活発にしないといけないだろうなと思いました。

ポジティブ目線からの希望

しかし、このネットワークがうまく回ることを前提にするとロマンティックなことが数々思い浮かぶのも事実です。

TipはNEMブロックチェーン上で行われることですので、送信時にメッセージを添えることで、アーティストへの思いや、作品を通じてTipする動機となった思いなどを刻むことができます。

オーナーが何代にも渡った暁には、過去のオーナーたちの思いという歴史をNEMチェーンを通して覗くことも可能になります。

例えば、作品をアーティストに返却せずに、娘や息子、孫に託し、その時にメッセージも添えておけば、代々の思いが半永久的にNEMブロックチェーンに刻まれます。その歴史はオーナー家だけではなく誰にでも覗くことができます。

メッセージはなくとも、「気持ちが動いた」ことをTipにより現しているのならば、その時刻を追うことでまるで作品がNEMによるTipで生かされ続けているような錯覚も得られるかもしれません。

ここらもまた専用アプリなどで、アーティスティックに何か表現されるような仕掛けがあると良さそう。

ということは、そのやりとりや歴史に感動した非オーナーの人々から作品にTipされる可能性が生まれちゃったりするかもしれませんし、もう作品が手元にない過去のオーナーが何かをきっかけにTipしてくれるかもしれません。

Tipを感覚的により活発にさせるため、作品に温度感知するようなマイクロチップ的な何かが埋め込まれて、それに触れている時間に応じてTipが自分のアカウントから勝手に送信準備されるようなIoTな仕掛けがあると面白いなと思いました。実現可能性はおいておいて。

3秒で1XEM、5秒で3XEMなど買い手が任意で設定しておけて、それがスマホアプリなんかで通知され、買い手がOKして送信される的なやつ。

アーティスト自身への評価

ここまで考えて、このTip方式で成功するということは、作品のクオリティは当然として、この販売方式を選択したアーティストや販売者への信頼度が成せるものではないかと思いました。(Tipしてくれるだろうという意味で)信頼できるユーザーに作品が渡るということも大事ですがそれ以上に。

恐らく、「作品をリリースしておけば自動的にちょっとずつ儲けが入ってくるかも…」という、利益第一主義の商売人スタイルでは決してうまくはいかないものでしょう。なのでTip方式というのはどんな商品でも受け入れられるものではなく、アーティスティックなものだからこそ成し得るものではないでしょうか。

アーティストや職人としての枠を超えた1人の人間としての活動が、関わる人々に目に見えない評価スコアを蓄積させ、それが1つの作品を通じて実を結ぶものではないかと、自分の中で1つの結論が出ました。

Tip式で購入しました

この試みに参加しないことには、何かを感じることも、何も感じないことも得られないと思いました。自分がどういう時に作品に対してTipをするんだろう…という興味が沸きました。

そして、僕の手元に届いたのは固有アドレスに「Amaryllis」と名付けられた唯一の作品で、最初のオーナーとなりました。

この記事を書き終えた今、このプロジェクトとAmaryllisの生き証人になるため、このような心躍ることをやらかしてくれたねむぐま氏への感謝を込めて、最初のTipを贈りました。

この企画の原型は2017年12月に生まれたものだそう。正直言うとそのことは記憶していましたが、当時はあまり響かなかったので企画賛同まで漕ぎつけませんでした。

最初から多くの人が興味を持つものなんてほとんどありません。好きで続けているうちに気付いたらこんなに輪が広がっていた!というのが成功の基本形ではないかと思います。ビットコインだってNEMだって同じですよね。

この企画も、今後さらに磨きがかかりアーティストやファンら共感者が集うことで、本当に1つの小さな経済圏を創ることになるかもしれませんね。

 - NEM(ネム) ,

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