NEMブロックチェーンで唯一無二のデジタルアートを表現した「閉鎖国家ピユピル」の裏側に迫る

 最終更新日2019/02/12 公開日2019/02/06    この記事は 約15分 で読めます。

日本のNEM界隈がこの斬新な発想にざわついている。その発信源となっている「閉鎖国家ピユピル」とは、ピクセルアートとNEMブロックチェーンを使って、空想上のリゾート地「ピユピルの国」を表現するプロジェクトだそうだ。

イラストレーターのヘルミッペ氏とプログラマーの高崎悠介氏が組んで展覧会で起こっている出来事だ。現地に足を運んでもらうことが一番だが、行けない人は「閉鎖国家ピユピルの感動」という参加者のレポートで感じてみて欲しい。

そこには、NEMブロックチェーンにデジタルアートを刻み、唯一無二のものとして所有権の証明や譲渡もできるメッセージが込められているようだ。

なんだか凄そうだが、イマイチよくわからないという声もあったので、わかりやすくストーリータッチで説明してみようと思う。尚、閉鎖国家ピユピル展のビジュアル感とは違うのはご了承いただきたい。

閉鎖国家ピユピルの裏側

最初に、この2つの前提を知ってもらう必要がある。

前提1

ブロックチェーンは、特定の誰かを信頼することなく、価値の保存や移転を可能にしたものである。

前提2

デジタル画像はそもそもビットマップコードなどのコードで構成されている。コードとは英数字で配列された文字列だ。

もしあなたが「ネコマン」というデジタルアートの画像を作るとそれは、例えばa1b2c3のような素人には意味のわからないコードで構成されている。実際コードは画像の複雑さに応じてもっとアホみたいにクソ長い。

ネコマン(素材用、原画は筆者の著作物ではありません)

ここで、あなたが創作したネコマンの唯一無二のデジタルアートを、NEMブロックチェーン上に住まわせて本当に唯一無二であることを半永久的に証明し、価値の移転も可能にする。

NEMブロックチェーンが存在する限り。

モザイクアセット

NEMにはモザイクという独自アセット(トークン)を誰でも発行できる機能がある。

そのアセットにネコマンを分解して忍ばせる

最初に書いたように、デジタル画像はコードで出来てる。

ネコマンはa1b2c3という配列になっているとする。実際コードは画像の複雑さに応じてもっとアホみたいにクソ長い。

ネコマンのデジタル画像はパソコン上でコピペで簡単に増殖可能なので、どれが本物なのかを証明するのは厳しいが、それを解決可能にするのが今回の手段だ。

NEMのモザイクアセットの構成

まずピユピルの裏側に入る前に、モザイクアセットの基本的な構成だけ説明しておこう。より詳細を知りたい場合は筆者の過去の記事を参照いただきたい。

NEMのモザイクアセットの構成は、

ネームスペース:モザイクアセット」という組み合わせになっている。

どちらもレンタルという形になっており1年単位で更新が必要だ。
NEMの次期バージョンCatapultではその期間が任意に設定できるようになる。また、ネームスペースとモザイクが切り離され(紐付けも可能)、モザイクの有効期限をナシにすることも可能。

NEMの基軸通貨であるXEMも同じで、NEMがネームスペース、XEMがモザイク、「nem:xem」という形式だ。

XEMの総発行数は約90億枚だが、もし1枚しか発行されていなければ、NEMブロックチェーン上でnem:xemは唯一無二のコインということになる。

ツイッターはtwitter.comというアドレス(URL)でアクセスできるが、誰かが全く同じアドレスで違うサイトを作ろうとしても無理、それと同じと思っていい。

サブネームスペース

また、ネームスペースはサブネームスペースというのを付けて階層化することもできる。

例えば、

nem.sub1:xem

nem.sub2:xem

と、nem:xemと合わせると3つのモザイクアセットXEMが作れる。

え?XEMが3つも?という心配は皆無だ。

山田太郎の一家に、

山田・ジェームズ・太郎

山田・フランク・太郎

という家族が増えただけで、すべて別人なのと同じだ。

ここまでの基本構成をとりあえずざっくり覚えておいてほしい。

ネコマンを唯一無二にする

これからあなたはネコマンのデジタルアートを具体的に唯一無二の存在にしていく。

ネコマン画像はa1b2c3というコードになっていた。

●あなたは自分のNEMアカウント「xyz」内でnecomanというネームスペースを取得。

●2019というサブネームスペースもレンタルしておいた。necoman.2019となる。

ちなみにxyzというのはあなたのNEMアドレスで、実際のアドレスはもっとプチ長い。NEMを使ったことのあるユーザーならわかると思う。説明のために簡易化してると理解してもらいたい。

続いて、

necoman.2019:a1b2c3というモザイクアセットを発行数1かつ追加発行不可で作る。

これでNEMブロックチェーンに刻まれた唯一無二のデジタルアートが完成だ。

…と思いきや、

実際コードは画像の複雑さに応じてアホみたいにもっとクソ長い」し、

ネームスペース名やモザイクアセット名の文字数に上限があるので、

necoman.2019:a1(発行数1、追加発行不可)

necoman.2019:b2(発行数1、追加発行不可)

necoman.2019:c3(発行数1、追加発行不可)

と上の3つのネコマン分割コイン画像のように、コードを分解してモザイクアセット名に含ませ、複数作る必要がある。パーツ化とでも言おう。

正確には、画像をデータ化してネームスペースとサブネームスペースを駆使してモザイクアセットでパーツ化すると、

necoman.2019.1-66cvzzzzzmj21eqnt9fzdctsmsk6csk6ppcrshk3etapcsk6csk6csk6d59a:x4ya25aanarp25hb7b8prbzr2r7gj0g3

というのがいくつも必要になる。簡単な画像であればモザイクアセット10個くらいで分割できるが、複雑な画像になるほど100個とかもっと増えるかもしれない。

実際に、ピユピル展で分割されたモザイクアセットがここにある。以下の画像のように分割されている。原画は白黒骸骨のシンプルなピクセルアートであるが、クソ長い。

それをここで説明するために簡単に表現したのが、

necoman.2019:a1

necoman.2019:b2

necoman.2019:c3

なんだと理解しておいてもらいたい。

ネコマン所有の喜び

ここで、ネコマンというデジタルアートがあなたの所有するNEMアドレスxyzを通してNEMブロックチェーンに刻まれた。

あなたはデジタルアート専用の額縁を部屋の壁にかけている。

それはNEMアドレスを読み込みNEMブロックチェーンにアクセスできる機能を持つ。

そんなものはまだないが、あるとする。あるのだ。

額縁であなたのNEMアドレスxyzを読み込ませ、necoman.2019:a1、necoman.2019:b2、necoman.2019:c3のモザイクアセット所有者であることを参照し、パーツ化されたクソ長いコードを1つに処理することで、ネコマンのデジタルアートが額縁に浮かび上がりあなたの部屋に飾られる。

それらのモザイクアセットの発行数はそれぞれ1つだ。同じものは作れない。

ネコマンがNEMブロックチェーン上で唯一無二のあなたの所有物となって生まれた

価値の移転を簡単に

さて、あなたはこの唯一無二のネコマンを誰かに売りたくなるかもしれないと思った。そしてそれはオークションなどでさらに所有者が移転していくかもしれないと思った。

「分解しパーツ化されたモザイクアセットは100個以上あるので、そんなもんをいちいち送信してはいろいろ大変だ。面倒くさい。」

「いや、100個以上あるからこそ移転が面倒で価値の上乗せになるかもしれない。」

「いや、しくじって1つ2つ誤送信して全てパアになってしまうかもしれない。」

「いや、とにかくサクっと送りてえんだよ!そこが大事なんだよ!!」

と自問自答の末、答えをだした。

そこで、次のようなモザイクアセットを新たにネコマンのデジタルアート所有者証明用に1つだけ作った。

necoman.2019-xyz:art(発行数1、追加発行不可)

先ほどパーツ化した複数のモザイクアセットが所有されているNEMアドレスxyzが含まれているのがポイントだ。日本のNEM界隈屈指の頭脳マン、LCNEM木村優氏のアイデアなんだそうだ。

これは言いかえると、画像のパーツが保管されている場所にアクセスして画像を復元し表示するための唯一のカギのようなものと思っていいだろう。

こうして、necoman.2019-xyz:artだけ持っていれば、唯一無二の作品のたった1人だけの所有者であることが確認され、デジタル額縁やスマホアプリなどでネコマンを表示させることが出来るようにした。

誰かに譲りたい場合はnecoman.2019-xyz:artというモザイクアセットを1つ送ればいいだけなので、大量のパーツ化されたモザイクアセットをすべて正確に移転する必要がない。

どこかの悪人が、necomans.2019-xyz:artという偽物モザイクアセットを作って似たようなことをやろうとしても、それが偽物であるというのが一目瞭然だ。

そんなものに価値はない。

所有可能者を増やしておくこともできる

もしあなたがネコマンの所有者をもっと増やしたいのならば、

necoman.2019-xyz:artという所有者証明用のモザイクアセット発行数を5なり10なりに増やしておけばいいし、

希少価値とか関係なく所有者を無限に広めたいのであれば、

追加発行可能にしておいて、90億が上限だが絵葉書感覚でバラまくこともできる。

完全な唯一無二のネコマンへ

ある日、なんだかんだあって、ネコマンの購入希望者が現れた

遠く離れた国に住む人物が、1000XEMで購入するという。

あなたは1000XEMと引き換えに、所有者証明用モザイクアセットであるnecoman.2019-xyz:artを相手に送信することで所有権を譲り終えた。一瞬だ。

今頃、ネコマンは新しいオーナーの部屋かオフィスかのデジタル額縁に飾られ、所有者を喜ばせていることだろう…。

しかし、ここであなたは思った。

「パーツ化したモザイクアセットは私のNEMアドレスxyz内で全部所有している…。」

「もし私がそのパーツを1つでも誰かに送ろうものなら、所有権は購入者にあるものの、額縁でネコマンが再現されず、所有してないようなことになってしまう…!」

「私に悪意が芽生えてnecoman.2019-xyz:art2などというモザイクアセットを追加で作って、やっぱもう1つあるとか言い出すかもしれない!」

これを良くないと思ったあなたは、NEMアドレスxyzの秘密鍵を処分し、関係するデータをPCから消去した。記憶にも残っていない。ネームスペースとモザイクアセットは1000年先までレンタル手続きが済んでいる(

もう誰もxyzというNEMアドレスを使うことができなくなった

たった1つのnecoman.2019-xyz:artというモザイクトークンを持つものだけが、今後1000年間、そしてNEMブロックチェーンが存在する間は、ネコマンのデジタルアート所有者であることが確定した。

完全な唯一無二の価値、ネコマンがNEMブロックチェーン上に完成した。

20年後…

NEMブロックチェーンで唯一無二の価値であることが世界中で認められ、ネコマンは現在300万XEMの価値となっている。

あれから20年経った現在、1XEM=0.001円だ。

でも、どのコンビニでもおにぎりが0.1XEMで買える。

(物価も下がってるというオチです。2019年現在で換算すると1XEM=1000円以上の価値w)

最後に、実用化に向けるなら…

以上が、閉鎖国家ピユピルで表現されたことの中身である。

誰でもが気軽にこの仕様を使ってデジタルアートを唯一無二にするには、なるだけ感覚的にNEMブロックチェーンに乗せることができる仕組みが必要になるだろう。

例えば、パソコンで描いたデジタルアートのファイルをドラッグ&ドロップし、自分の所有するNEMアドレスとマッチさせ、いくつか設定するだけで複数のモザイクアセット化でき、その所有者証明用モザイクアセットもわかりやすく視覚化されて出力されるなど。

そして何より希少価値を認めさせるには、アーティスト自身や彼や彼女の創り出す作品が世の中に知られた上で、NEMブロックチェーンを使った価値の保存や移転が認知されている必要もある。

また、高崎氏とも話したが、「NEMアドレスxyzの秘密鍵を処分」のところで、ネコマン作者であるアーティストが本当にそれを処分したのかどうかの証明は難しい…というのはある。

にしても、今回の事例は我々のNEMの本質に関する認識をまた一歩前進させたのではないだろうか。ここからまた新たな発想が生まれるのが楽しみで仕方がない。

※の部分で、レンタル期間を1000年先にしています。Catapultではレンタル期間を任意のブロック数の期間で指定できるようになることからです。モザイクの有効期限を永続にすることもできるので、その必要がなくなるとも言えます。

尚、実際のピユピルではパーツ化されたモザイクが保管されているアカウントと、それらのネームスペースとモザイクアセットを発行したアカウントは別となっており、前者の秘密鍵の処分をして、後者のアカウントでレンタル更新手続きをするようになっているそうです。

前者からパーツ化されたモザイクアセットの移転はできなくなっているものの、もし後者で更新手続きを忘れてしまったら、「所有権はあるが作品がない」状態になってしまいます。

※高崎氏に内容を確認してもらいながら執筆しましたが、もしどこか間違っている部分がありましたらご連絡ください。

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